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ニュースリリース

太陽光をエネルギー源とした物質変換の新発見!近畿大学理工学部応用化学科教授・多田弘明らの研究成果

2015年2月24日

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科教授・多田弘明らの研究グループは、医療品や農薬などの原料として重要なアルデヒドやイミンを得るための、新しい物質変換の方法を発見しました。通常、物質変換を行う際には化石燃料の熱エネルギーを使用しますが、今回の手法は太陽光をエネルギー源とする地球環境に優しいものです。なお、この研究成果は、化学のトップジャーナルの一つであるアンゲバンテ・ケミー国際版(2013年インパクトファクター:11.336)に平成26年(2014年)12月8日付けで掲載されました。

【本件のポイント】

●医薬品や農薬の原料となるアルデヒドやイミンを得る、新しい物質変換の方法を発見
●化石燃料の替わりに太陽光をエネルギー源とするため、地球環境に優しい

【研究の概要】

本研究の概念図

多田らの研究グループは、アミノ酸やタンパク質にも含まれるアミンと呼ばれる化合物を、光触媒を用い、環境に優しい太陽エネルギーのみで物質変換し、アルデヒドやイミンを得る手法を新しく開発しました。
また、一般的な物質反応においては目的以外の副生成物ができてしまい、これを分離するのにエネルギーやコストを要しますが、本手法ではほぼ100%純粋なアルデヒドやイミンを得ることが可能となります。
なおこの研究は、平成26年(2014年)私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(文部科学省)に採択された研究プロジェクト「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」(代表:理工学部応用化学科教授 藤原 尚)の助成を受けています。

【論文名】

Multi-Electron Oxygen Reduction by a Hybrid Visible-Light-Photocatalyst Consisting of Metal-Oxide Semiconductor and Self-Assembled Biomimetic Complex (Angewandte Chemie-International Edition Volume 53, Issue 50, pages 13894-13897)

【研究の背景】

近年、化石燃料の枯渇、地球温暖化による気候変動が深刻化しつつあり、再生可能エネルギーの開発が緊急の課題になっています。化学の社会的使命は、人類にとって有用なものを合成し、有害なものを分解除去すること(物質変換)です。
一方で、酸化反応において欲しいものだけを得る選択的な物質変換は困難だと言われてきました。それは、有機化合物は強い酸化条件の下で段階的に酸化され、最終的には極めて安定した二酸化炭素が生成されるからです。これは地球温暖化の根本的な原因でもあります。太陽光をエネルギー源とする地球環境に優しい物質変換の手法を開発できれば、これらのエネルギー・環境問題の解決や軽減に大いに役立つものと期待されていました。

【研究の詳細】

基本的な光触媒反応機構

多田らの研究グループは、銅アセチルアセトナト(Cu(acac)2)と呼ばれる錯体と、バナジン酸ビスマス(BiVO4)と呼ばれる半導体から成る光触媒を用いて研究を行いました。この光触媒の表面においてCu(acac)2が空気中の酸素を取り込んで集合することを、実験と量子化学を用いたシミュレーションによって明らかにしました。
上述の半導体とアミンに可視光を照射すると、アミンが水溶媒中ではアルデヒドに、アセトニトリル溶媒中ではイミンに、効率良く選択的に酸化されます。この反応は、Cu(acac)2、BiVO4のどちらか一方だと起こりませんでした。
これらから、Cu(acac)2とBiVO4を組み合わせたハイブリッド型の光触媒を使うと、物質の酸化反応を二酸化炭素になるまでの途中段階で止め、目的の化合物を手に入れることができることが分かりました。

【今度の展開】

今回の研究成果により、アルデヒドやイミンなど有用な化合物を、より地球環境に優しい方法でしかも安価に取得できることが考えられます。たとえば、香料や炎症を抑える薬に利用されているメントールはシトロネラールというアルデヒドから合成されていますし、類似のシトラールはレモングラスなどの精油の成分あるいは香料として使用されています。他にも、解熱鎮静剤、溶剤、樹脂など様々な用途に利用されると考えられます。イミンも医薬品などの原料として貴重な化合物です。
また、「酸化反応を目的の段階で止める」という性質を、他の物質変換に適応することで、アルデヒドやイミン以外の有用な化合物を得ることが期待されます。

【多田弘明 プロフィール】

昭和57年(1982年)京都大学工学研究科石油化学専攻 修士課程修了
昭和57年(1982年)日本板硝子株式会社 中央研究所 勤務
平成 2年(1990年)工学博士号(京都大学)取得
平成 9年(1997年)近畿大学環境科学研究所 助教授
平成14年(2002年)米国カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員
平成17年(2005年)近畿大学理工学部応用化学科 教授(現職、専門:光電気化学)

【用語説明】

●錯体
一連の配位子に囲まれた金属原子もしくはイオンを含む構造体のことです。自然界(生体内)のいたるところに存在し、生命の複雑な反応(酵素反応)を担っています。化学工業では、反応を制御または促進させる触媒として利用されています。野依先生や白川先生、そして鈴木先生・根岸先生のノーベル賞受賞は錯体を用いた研究です。また、次世代の太陽電池である色素増感太陽電池にも利用されています。
●光触媒
光を吸収することによって特定の化学反応の反応速度を速める物質であり、酸化チタン(TiO2)やバナジン酸ビスマス(BiVO4)は代表的な半導体光触媒として良く知られています。建物の壁や空気清浄機、トイレの抗菌コートなどに利用されています。半導体光触媒は日本が最先端を走っており、世界に誇る分野の1つです。
●合成中間体
医薬品や化成品を製造する際の原料です。天然から取れる物質そのものではなく、加工(合成)している途中であるため「中間体」と呼びます。
●アミン
アンモニアNH3の水素原子を炭化水素基Rに置換した化合物で、置換された水素の数によって、第1級アミンRNH2、 第2級アミンR2NH、 第3級アミンR3Nに分けられます。アミノ酸、ペプチド、タンパク質やセロトニン、ドーパミンなどに含まれています。
●イミン
イミノ基=NHと炭化水素からなる第2級アミンの意味です。医薬品や化成品の合成中間体であり、錯体合成にも用いられます。
●アルデヒド
カルボニル基に水素原子を少なくとも1個もつカルボニル化合物の総称です。反応性が高いため、さまざまな医薬品や化成品の原料となります。香りが強いため、アルデヒド自身も合成香料としても広く利用されています。
●アセトニトリル(CH3CN)
安定・無害で、任意の割合で水と混ざるという特徴を持っており、化学では溶媒としてしばしば使われます。
●バナジン酸ビスマス(BiVO4
鮮やかな黄色を呈する半導体で、道路の追い越し禁止ライン用塗料の顔料としても使用されています。
●アセチルアセトナト([CH3COCHCOCH3]-)
アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)からプロトンが取れて生じた陰イオンで、しばしば金属イオンと結合して安定な錯体を作ります。

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