Review01

図書館司書コース終了

公共図書館勤務

吉田奈緒さん

旅をする木

(著)星野道夫

  • この本と、どんな風に出会いましたか?

    中学生の頃、教科書で星野道夫さんについて紹介されていて、その時から星野さんの生き方に少し憧れていたのだと思います。この本を読んだのはもっと後になってからです。ちょっと遠出をした時に入ったカフェでたまたま見つけて、縁のようなものを感じて手に取りました。

  • この本の最大の魅力は?

    自然の描かれ方が、神聖な物語のようで魅力的です。動物や風、氷河や火山など、美しいだけではない荘厳な姿が目に浮かんできます。この本を読むと、自然や時間の壮大なスケールを感じられるのですが、だからこそ自分の足元の日常を大事にしたいと考えるようになりました。毎日、多くの情報があふれる中で、早急に結果を求めてしまいがちです。でも、アラスカに生きる人たちのように、自分の感覚をきちんと使って、シンプルでも手ごたえのある生き方ができたらいいな、と思えてきます。

  • 特に心を揺さぶられたシーンは?

    星野さんが満月の夜に一人、スキーで滑り出して行くところが印象的でした。夜に氷河の真っ只中にいるというのはものすごく孤独で冷たい世界が想像されるのですが、ボトルに入れた熱いコーヒーをすすりながら星を眺めているシーンには、なぜか穏やかに気持ちになります。そして、自分もそんな時間を過ごしたい、と、羨ましくなってしまいます。

  • 一番好きな「台詞」や「一節」は?

    “人間が消え去り、自然が少しずつ、そして確実にその場所を取り戻してゆく。悲しいというのではない。ただ、『ああ、そうなのか』という、ひれ伏すような感慨があった。”

    という一節です。歴史的にも重要で神聖な場所を、保存するのではなく朽ち果ててゆくままにしたい、というハイダ族の人たちの考え方と、失われていくものをあるがままに受け入れる姿勢が、なんだか良くて。「旅をする木」の話にも通じる気がするのですが、永遠のものなんてなくて、すべて巡ってゆく、私たちもみんな旅の途中なのだ、ということを感じる一文だと思います。

  • どんな人におすすめですか?

    自然や旅が好きな人はもちろんですが、情報社会でお疲れ気味の人に読んでみてもらいたいです。自分が生きている同じ瞬間、地球のどこかで、ゆったりと流れる「もうひとつの時間」があるということについて書かれている章があります。本を開いて、そんな感覚を持てることで、日々の生活がちょっと良いものになるような気がします。ひとつひとつは短いお話なので、そういう意味でも忙しさを感じている人におすすめです。

  • この本への愛を語ってください。

    私自身、普段はスマホやコンビニなどにお世話になる生活を送っています。ですが、この本を読むと、心のどこかにある原始的な欲求が刺激される感覚がして、自分の中にそんな感性が残っていることがうれしくなります。アラスカに生きる人々の人生にも、自然にも、美しいだけじゃなく辛いことや厳しさがありますが、それを綴る星野さんの言葉はどこか優しくて。生きる上で大事な本質について考えさせてくれるような、そんな本です。

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旅をする木

(著)星野道夫

1999年3月10日初版

文藝春秋

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