図1 [Fe(Hqsal-5c)2]のXMT-T プロット
昇温過程(赤色)および降温過程(青色)
SMM(Single-Molecule Magnet)やSCM(Single-Chain Magnet)に代表される量子磁石は、従来の記憶媒体のダウンサイズ化が限界に近づきつつある現在、ボトムアップの化学的手法により得られる均一な系として注目されている。一方、外部刺激に応答して磁性が変化する特性を有するスピンクロスオーバー錯体は、ナノサイズ磁石に分類されるものではないが、各種センサーやデバイスへの応用を目指して研究が行われている。
これまでに、鉄スピンクロスオーバー錯体系において、[Fe(qnal)2]にでは220 Kでの急峻なスピン転移と、極低温でのLIESST(Light-Induced Excited Spin State Trapping) 現象を示すことを明らかにした[1]。また、qsal系三座Schiff塩基配位子による鉄(II)錯体において、配位子上の置換基により、スピンクロスオーバー(SCO)特性が大きく変化することを明らかにした(図1)[2]。具体的には、カルボキシル基を有する[Fe(Hqsal-5c)2]においては、2次元水素結合網の形成によりSCOを示すが、置換位置の異なる[Fe(Hqsal-4c)2]や水酸基の置換した[Fe(qsal-nOH)2]系においてはSCOを示さないことがわかった。
一方、より高温でSMM特性を示す可能性が高いことが知られている希土類系SMMについての検討も行っており、希土類イオンとSchiff塩基系配位子によるトリプルデッカー構造を有する錯体の構造を明らかにしており、それがSMM特性を示すことも明らかにした。
上述の鉄スピンクロスオーバー系における、配位子修飾による転移温度の高温化やヒステリシス幅の増大、LIESST現象の確認等をおこなうとともに、希土類系SMMについても研究を継続・発展させ、省電力デバイス開発への一助としたい。