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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

究極理論への夢
~素粒子、宇宙、重力への統一的アプローチ~
近畿大学理工学部 理学科 教授
太田信義

素粒子とは何か

あらゆる物質は、細かく分割していくことで、どんどん小さい構造が現れてきます。
たとえば、図1に示したように、コップ1杯の水は6×1024 個もの水分子からできており、その分子は原子からなっていて、これをどんどんさかのぼると、最後には電子とクォーク(u, d, c, s, t, b)と呼ばれる粒子にたどりつきます。また電子の仲間としてμ、τとそれに付随したニュートリノもあり、これらはレプトンと総称されます。
電子やクォークはこれ以上分割できない粒子であり、それらによって我々の世界のすべての物質はできていると考えられています。

図1 標準理論の物質構成

図2 素粒子

このように、物質の根源的構成要素が素粒子ですが、それだけではなく、物質の間に働く基本的な力を媒介する粒子もあります。素粒子の間に働く力は、電磁気力、強い力、弱い力、重力の4つだけであり、それらはいずれもゲージ理論と呼ばれる場の量子論により記述されます。その力を媒介する粒子は、図2に示したように、光子(γ)、グルーオン(g)、ウィークボソン(W, Z)と呼ばれるゲージ粒子です。重力の場合は、グラビトンと呼ばれています。実は、それ以外に素粒子に質量を与える役目をするヒッグス粒子という粒子も存在します。私の研究室では、このような素粒子の研究を行っています。

粒子か弦か

「素粒子」がこれ以上分割できない構成要素だとすると、点状の粒子と考えるのが自然だと思いますが、そうではなくて素粒子が、実は非常に小さな弦でできている可能性があると言われるとびっくりするでしょうか?実は、現在の素粒子の最先端では、そういった可能性が真剣に検討されています。その理由は、重力を量子力学の法則で取り扱おうとすると問題が起こるので、それを回避するため。ミクロの世界を「記述」するための理論である量子力学によれば、ある状態から別の状態になるプロセスを「評価」するには、単にその理論の公式をあてはめるだけではなく、途中で経由する状態の「効果」を取り入れないといけません。これを量子効果と言いますが、この途中の状態が無数にあると、そのプロセスの起こる確率が無限大になってしまうことがあるのです。
重力以外での相互作用では、そうやって出てきた無限大を、観測できる電荷などに押し付けて(くりこんで)結果を有限にすることができ、それが実験事実にぴったりと一致しています。ところが、重力の標準的な理論である一般相対論で量子効果を計算すると、異なる種類の無限大が無数に出てきて、くりこみはうまくいきません。また、一般相対論にはブラックホール解や、宇宙初期を記述する膨張解がありますが、それらには特異点があり、そこでは理論が破たんしてしまいます。これを取り扱えるのが、素粒子や重力の量子論なのです。
ミクロの世界の理論である素粒子論が、この壮大な宇宙と関係しているというと、変だと思うでしょうか?現在の宇宙が膨張しているという観測事実があることは聞いたことがあるでしょう。そうすると、現在から過去へうんと時間をさかのぼると、どこかで宇宙がとても小さかった時代があることになります。そのときの宇宙はまさに素粒子論で取り扱わなければならないわけです。また、ぎりぎりまでいくと宇宙が点であった時、宇宙の始まりに行き着くわけですが、それは特異点であり、一般相対論では取り扱うことができません。これを解決すると考えられているのが、素粒子が点状の粒子ではなく、ひものような形状であるとする超弦理論です。

超弦理論は究極理論か

重力の理論における無限大の困難は、素粒子が点状であることによります。しかし、素粒子が弦状だと、理論の中に基本的な長さというものが加わり、そのようなことは生じません。一方で、素粒子は点粒子のように見えているのに、弦でも大丈夫なのかという疑問が生まれるかも知れませんが、弦のサイズが我々の検出できるサイズよりもずっと小さければ、問題はないのです。
超弦理論の重要な特徴は2つあります。1つは、弦がどのように振動しているかによって異なる粒子が生じます。弦には、糸のように開いた弦と輪ゴムのように閉じた弦があり、前者がゲージ粒子やクォークなどになっていて、後者はグラビトンになっています。開いた弦理論を考えると、弦がくっついたり離れたりする相互作用により必ず閉じた弦ができます。すなわち、弦理論を考えると必ず重力理論が生成され、重力が必然的に含まれるという意味で統一理論を与えるわけです。これは粒子の理論から出発したのでは出てこない、弦理論の非常に重要な特徴と言えます。もう1つは、弦理論が矛盾を含まないという条件のために、必ずフェルミ統計に従うクォーク、レプトンなどの物質を含まねばならないことです。つまり、なぜこの世に物質が存在しなければならないかの根源的な理由を与えるのです。こうして超弦理論は、素粒子のすべての相互作用を含む唯一無二の理論である可能性が高いと考えられるのです。素粒子の究極理論となるかも知れません。

超弦理論の研究

私は素粒子の理論を根源的、統一的に理解したいと考え、このような超弦理論を研究してきました。この理論で未解決の最大の課題は、超弦理論の基本的な方程式がわかっていないということです。たとえば、力学はニュートンの運動方程式があって、それを解けばいいわけですが、超弦理論にはそれに相当するものがありません。私が超弦理論の研究を始めた1985年頃には、それを場の量子論として定式化すればよいのではないかと考え、しばらくそういう研究をしていました。この中で特筆すべきは、弦の場の量子論の基礎となる共変的(BRST)量子化を与えたことです。しかし、このやり方は難しく、また実際にそれを使って超弦理論から物理的な予言を引き出すことが難しいことがわかってきました。また、せっかく重力の量子論を目指しているのに、曲がった時空を記述するにはそういうやり方ではどうもうまくいきません。
現在でも、このやり方や別の方法で超弦理論をどのように定式化するかという研究は活発に行われていますが、私はそのような理論的側面ばかりではなく、超弦理論が物理的にどのような予言をするのかという疑問にもっと興味があります。超弦理論が本当に物理として役立つものなのかどうかをはっきりさせるには、超弦理論から観測と比べ得る予言を導き出し、これを観測と比較し確かめていく必要があるのです。そのためには、まず宇宙初期に起こったと考えられているインフレーションを与える解を導き、それから現在までの宇宙の発展をきちんと記述することや、ブラックホールの量子力学的理解が急務です。
そこで、私は別のアプローチを考えました。超弦理論には質量0の粒子と、0でない粒子が無数に含まれていますが、0でない質量の粒子はプランク質量くらい重く、我々の日常世界を記述するときにはあまり影響しないはずです。そこで質量が0の粒子だけを残した低エネルギー有効理論を使うのです。その場合、理論は一般相対論を少し修正した理論になることがわかり、また重力以外に特別な物質場が入っている理論になっています。これだと、一般相対論とどのように違う予言をするのかといった物理的な結果を得ることができるわけです。このやり方でまず得た結果は、超弦理論にはブレインと呼ばれる板のような空間の解があるということです。超弦理論は10次元という高次元の理論ですが、その中にいくつかのブレインが埋め込まれている一般的な静的解の可能な解をすべて構成することができました。物理的には、このブレインが我々の住んでいる4次元の空間であるという可能性を切り開くものです。また、このブレイン解は4次元の立場で見ると、ブラックホールと考えることができるので、超弦理論によるブラックホールの理解にもつながりました。

宇宙初期をも説明できる超弦理論

一方で、この一般的な解の構成法は宇宙論に関係した新しい発展につながりました。2003年1月に、私は上のブレイン解で時間に依存した解が考えられていることを知り、上記で私が構成していた静的な解をうまく変形すれば、完全に一般的な解を構成できることに気づいたのです。その前年にブレインを使った宇宙の記述の研究会に招かれ連続講演をしていたことや、ケンブリッジであった超弦理論の研究会strings 2002で、時間に依存した解が重要であるという雰囲気を感じていたお陰だと思います。解の構成はすぐにできたので、論文として出しましたが、そのときにはあまり応用がよくわからなかったため、「問題を探している答え」と呼んでいました。ところがその2ヶ月後の3月に、中国の合肥を訪問しているときに、イギリスの友人であるP. Townsendが論文を書いて、超弦理論の有効理論では宇宙の加速膨張を記述できないという「否定定理」があるが、その中の暗黙の仮定をはずすとそういう解ができるという主張をしました。これを見たとたんに私にはピーンときました。これこそがまさに探していた問題だと。すぐに確認してみると、私の解はより一般的な解の構成法で、さらにTownsendがまだ仮定していることを外しても加速膨張解を与えることがわかったのです。この解は空間的ブレインと呼ばれています。これは重要な結果だと考えています。
ただ、この解は宇宙初期に起こったと考えられているインフレーションとしては、十分大きな膨張を起こしません。そこで、上記の研究会で知り合った重力理論の専門家である早稲田大学の前田恵一教授に共同研究をお願いしました。そこで注目したのは、超弦理論から出てくる有効理論には、一般相対論と違う高階微分を含む項が入っていることです。「否定定理」を証明するときに、この点も考えていなかったのですね。そこでこれを入れて調べてみると、予想通り加速膨張解が得られることがわかりました。しかし、現在の宇宙にまでそれがつながるかどうかまでは解析できていないので、それをきちんとやりたいと思っています。今後の私の研究課題です。

量子重力理論に向けて

この高階微分を含む理論というのは、一般に負の確率を持つゴースト粒子を理論の中に入れることになるので、多くの人はあまり真剣に考えません。そういう問題があったのですが、2009年にやはりTownsendが、3次元の場合は高階微分があってもそういう問題がない場合があるということを指摘しました。これは重要な発見だと思いました。なぜかというと、4次元では高階微分があるとくりこみが可能な量子重力理論になることが知られていますが、ゴーストの問題があるので、誰も真剣に考えていないのです。しかし、3次元とはいえ、もしゴーストの問題がなければ、初めてのくりこみ可能な量子重力理論になる可能性があるわけです。先にも言ったように、超弦理論の有効理論には必ずそういう項があるので、この理論は超弦理論と無関係でもないのです。そこで、私はまず、3次元の高階微分を含む理論でゴーストの問題のない場合を完全に分類してみたのです。そして、ゴーストのない場合にくりこみ可能になるかどうかを調べてみました。その結果、ゴーストがない場合とくりこみ可能な場合はちょうど相容れない関係になっていることがわかりました。これは大変残念な結果ですが、そこでくりこみ可能性を一般化した漸近安全性を持つ理論になっている可能性があることに気がつきました。現在はこの方向を掘り下げているところです。今までにない多くのアイデアが必要だとは思いますが、近い将来に、重力の量子論がきちんと理解でき、その予言が検証できることを私は期待しています。

研究歴

私は、理論のきちんとした定式化にも興味がありますが、それよりも理論からどのような物理的結果が得られるのかにもっと興味があります。その起源は私が研究を始めた大学院生の頃にさかのぼります。そのころ、素粒子の強い相互作用をするある中間子が、理論的には軽いはずなのに現実には重いことや、崩壊が理論の予言と一致していないことが大きなパズルとして残っていました。それが幾人かの人によって、グルーオンの効果によるのではないかと示唆されていましたが、私は河原林教授とともに、それをある程度定量的に説明することに成功したのです。この仕事は、理論的側面から見ても、また実際の現象を説明できたという面から見てもとても満足のいく仕事でした。この原体験があるので、私はいつも、理論のための理論よりは、そこからどのような物理的結果が出てくるのかに興味があります。その後は、素粒子の統一理論や重力の量子論に興味を持ち、超対称性理論やカルーツァ・クライン超重力理論、それから超弦理論の研究に進んでいきました。超弦理論は素粒子のすべての相互作用を記述する統一理論になる可能性を秘めており、大変興味の持たれる理論です。しかし、物理的、実験的裏付けがないのです。超弦理論では宇宙の加速膨張解が得られないと言われていましたが、それを出す可能性を発見できたのは面白い結果だったと思います。超弦理論に動機づけられた超重力理論による解析で、ブラックホールや宇宙解を調べたり、超弦理論の(理論的側面ではなく)物理的側面の研究、とくにそれを検証する可能性について興味を持って研究しています。ポスドクで来てもらっていた中国のR. G. Cai教授と、超弦理論の立場から、高次元のブラックホールの熱力学とその物理的応用についての研究に没頭したこともあります。これは重力理論の再定義につながる可能性を秘めていると思っています。また、最近はイタリアのR. Percacci教授と漸近的安全性を視野に入れた研究を行っています。そのほかに、現在の宇宙が加速膨張していることを自然に説明できる理論として、グラビトンが質量を持った理論を、京都産業大学益川塾の九後汰一郎教授と一緒に研究しています。今まで多くの人と共同研究をできたのが大変うれしく、ありがたいことだと思っています。これを通じて、研究もやはり人と人とが議論し合い、互いに刺激し合うことで発展する部分が大きいんだなということを実感しています。

用語説明
場の量子論とは
場とは、電場や磁場のように、空間の至る所に定義された量のこと。それは電磁波のように波になって伝わるが、量子力学によると、それは粒子と考えることもできる。これを「場を量子化する」と言う。そのため粒子の交換により、力が伝わることになる。こうして作られた理論が場の量子論である。
ゲージ理論とは
理論に含まれる素粒子を記述する場が、時間と場所によって異なる位相変換をしても変わらない理論のこと。元々は、位相変換ではなく、スケール変換を考えていて、スケールを表すゲージ(ものさし)という言葉を使ったため、名付けられた。その不変性を要求すると、ゲージ場が存在して、力を媒介することになる。電磁場はその一種である。
超弦理論とは
素粒子が弦のように広がっていると考える理論。弦の振動によりエネルギーが異なるので、振動状態により異なる粒子を与える。ただし、我々が見ている粒子は、その中の質量が0の粒子と考えられる。フェルミオンが入っていないボソン弦はタキオンがあって安定でない理論だが、フェルミオンが入っている矛盾のない理論が超弦理論である。また、超弦理論では、時空の次元が10次元になることが予言されている。これは余分の空間がコンパクトになっていれば問題にはならない。
インフレーションとは
現在の宇宙を太陽系の大きさより大きなスケールでみると物質分布が一様、等方的である。また空間は球面のように曲がっていなくてほぼ平坦である。このような状況を説明するための提案として、宇宙がその生まれたすぐ後に急激な加速膨張をしたと考えられている。この急激な膨張をインフレーションという。
漸近的安全性とは
素粒子の理論の無眼大の困難は、理論の高エネルギーでの振る舞いが制御できないところにある。しかし理論の結合定数が高エネルギーで、ある一定の値に収束してくれれば、そういう問題はなく、物理的予言を無限大なく計算できる。理論がそういう性質を持つとき漸近安全な理論、その性質を漸近的安全性という。

理学科 教授
太田信義

所属 学科 / 理学科 物理学コース専攻 / 理学専攻
研究室 素粒子論・重力理論研究室
略歴
1977年 東京大学 理学部 物理学科 卒業
1982年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 理学博士
1982年 日本学術振興会奨励研究員(東京大学)
1983年 イタリア国立原子核研究所(ローマ)研究員
1983年 大阪大学 教養部 助手
(1985-1987 日本学術振興会海外特別研究員(米国テキサス大オースティン校))
1988年 大阪大学 教養部 講師
1990年 大阪大学 教養部 助教授
(1993-1994 デンマーク北欧原子物理学研究所(NORDITA)研究員)
1994年 大阪大学 理学部 助教授
2006年 近畿大学理工学部 理学科 教授
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