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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

細胞移動のメカニズムを解明し
癌転移、免疫応答のコントロールをめざす
近畿大学理工学部 生命科学科 准教授
早坂晴子

体内を移動する細胞たち

私たちの体の中には約37兆個の細胞があると言われています。このうちほとんどの細胞は特定の場所にとどまり、その細胞が持つ機能を発揮しています。
一方で、体内を活発に動き回る事が役割の細胞もいます。このような細胞の代表が赤血球や白血球など、血液中にいる細胞です。赤血球は酸素を体中に運搬する細胞としてよく知られています。白血球には顆粒球やリンパ球、単球などがあって、外部から侵入した病原体を攻撃したり、「免疫」と呼ばれるシステム、つまり一度体内に入った異物を覚えておいて早期に排除する働きを担っています。
また、血液中以外にも、体内組織には機能の異なる様々な種類の免疫細胞が存在し、現在でも次々に新しい機能を持つ細胞が見つかっています。これらの細胞は役割分担しながら外敵から私たちを守っています。そしてこれらの細胞たちが実力を発揮するには、効率よく仕事ができる「職場」に行く事が必要となります。では、これらの細胞がどのようにして自分に合った職場を見つけて移動し、働く事ができるのか。それが、私の研究テーマの1つです。

癌の転移と細胞遊走

さて、癌細胞も実は白血球などと同様に、体内を移動する細胞です。癌細胞が原発巣から他の臓器に移動した結果が「転移」になります。癌の転移は、癌細胞が組織から離れて血中へ移動するプロセスと、血中から組織へ集積するプロセスが連続的に起こることにより成立します。
私は大学院時代、子宮頸癌ウイルス(ヒトパピローマウイルス)によって細胞が癌化するしくみに興味を持ち、大阪大学微生物病研究所で研究を始めました。当時は、癌遺伝子や癌抑制遺伝子が次々に同定されており、遺伝子組換えマウスを使った実験でこれらの遺伝子の重要性が明らかになりつつありました。私の研究テーマも癌抑制遺伝子に関するもので、免疫不全マウスに癌細胞を移植し、癌の増殖に対する癌抑制遺伝子の効果を解析していました。これをきっかけに、癌の浸潤・転移に関する実験のため、大阪成人病センターにも行きました。当時はまだ癌転移の研究が注目され始めたばかりで、「日本がん転移研究会(現・日本がん転移学会)」が発足して間もない頃でした。
私はさらに新しい分野にチャレンジしたいと思い、癌転移に関連した細胞接着を研究している大阪大学医学系研究科のラボで研究を始めました。

細胞遊走因子と接着分子

先にあげた細胞が「職場」へ移動する時、その細胞の行き先決定に関係する鍵となる分子があります。その1つ目は、「細胞遊走因子」と呼ばれる分子です。ケモカインが代表的なものです。ケモカインは、その濃度が高い方向に細胞を誘導する活性(ケモタキシス)、細胞死のシグナルを抑制する活性をもつことがわかっています。
もう一つは「接着分子」。代表的なものはインテグリンという分子群です。細胞は、インテグリンに結合する分子を足がかりとして伸展し、前に進みます。リンパ球がリンパ節などの免疫組織へ移動するプロセスには、これらの分子が協力して働きます。
まずリンパ節の血管に発現するケモカインがリンパ球に発現する受容体に作用し、「ここへ来い」というシグナルを出します。次にリンパ球に発現するインテグリンが血管に発現するリガンドに結合します。以上のような一連のプロセスがうまく働いたときに、リンパ球は「職場」に到着することができるのです。

ケモカインで誘導される細胞遊走

リンパ球に作用するケモカインは数種類ありますが、どのケモカインで刺激されるかによって細胞は異なる動きをします。例えばCXCL12というケモカインでは、細胞は寄り道をしながら、ケモカイン濃度の高い方向へ移動します。一方でCCL21というケモカインは、猪突猛進型の動きを誘導します(右図 ケモカインで誘導されるケモタキシス:顕微鏡で実際に観察すると、個々の細胞がそれぞれ独立の生命体のようで、大変興味深いです。動いているうちにインテグリンが働きだしたのか、しっかりと腰を落ち着けてしまう細胞もいます)。これらのケモカインがどのようなしくみで多様な動きを誘導できるのかはわかっていませんが、体内では複数のケモカインが協力し合ってリンパ球の移動を調節することがわかってきました。

感染症、癌転移、免疫応答のコントロールをめざして

ケモカインが誘導する細胞遊走の研究は、HIV感染症の抑制にもつながるかも知れません。先にも述べたCXCL12はリンパ球に発現する受容体に結合しますが、このケモカイン受容体はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の受容体としても働きます。つまりHIVはケモカイン受容体に結合し感染します。これまでに私たちは、HIVがケモカインのような作用を持つ事、CCL21の協力を得ながらリンパ球をリンパ節に集める事を明らかにしました。感染したリンパ球はリンパ節に集まった後、自殺することが知られています。HIVの受容体を阻害してリンパ球がリンパ節に集まりにくくすれば、リンパ球の自殺を食い止め、AIDSの進行を遅らせることができるかも知れません。このような研究はウイルスを専門とする研究者との共同研究の成果です。
癌の転移においても、癌細胞がケモカインによって刺激される事で特定の臓器を標的として遠隔転移する可能性が考えられています。現在は乳癌のリンパ節転移に関係するケモカインを研究対象としています。最近では、組織工学を専門とする研究者との共同研究から、複数のケモカインの作用でリンパ管に癌細胞が侵入するという証拠をつかむことができました。

メッセージ

自分の枠を決めずに少し無理をすること、経験の無いことに苦手意識を持たないということが重要です。私はこれまでに、ウイルス発癌、接着分子、熱ショックタンパク質、細胞内シグナル分子など様々なテーマで研究し、酵母の変異体から組換えマウス作成まで手がけた上に、生化学的解析ばかりの時期もありました。経験が無い、自分には無理と思っても、とにかくやってみることをお勧めします。無駄に思えることでも、後日予想もしないところで役立つ場合があります。あえて苦手な世界に飛び込むのもいいでしょう。意外とできてしまう自分に驚き、次のチャレンジへのステップにもなります。

用語説明
ケモカインとは
白血球の細胞遊走を誘導する活性をもつサイトカインの一群で、これまでに50種類以上が報告されている。特定のケモカインは特定の7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体に結合し、細胞内にシグナルを誘導する。
インテグリンとは
α(アルファ)鎖とβ(ベータ)鎖のヘテロ二量体として働く細胞膜貫通タンパク質で、フィブロネクチンやラミニンなどの細胞外基質や、細胞表面に発現する別の接着分子と結合する。

生命科学科 准教授
早坂晴子

所属 学科 / 生命科学科
研究室 免疫分子機能研究室
略歴
1997年 大阪大学医学研究科博士課程修了 博士(医学)
1998年 東京都臨床医学総合研究所CREST研究員/日本学術振興会特別研究員
1999年 米国バージニア大学Research associate
2004年 大阪大学医学系研究科 助教/講師
2015年 近畿大学理工学部生命科学科 准教授
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