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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

「ソフトマター」×「分子シミュレーション」
~ミクロな視点で工学研究を深化させる~
近畿大学理工学部 機械工学科 講師
荒井規允

「ソフトマターを知っていますか?」

「ソフトマター」という言葉には耳馴染みがないかも知れませんが、実は私達の身の回りの様々なものがソフトマター製品です。例えば、ゴムタイヤや洗剤、化粧品、日焼け止めクリーム、服の素材、アイスクリーム等々。かくもソフトマターは様々なものへ応用されていて、今日では私達人間が生きていくために必要不可欠なものとなっています。これらの製品に共通しているのは、「柔らかい」ということ。私達の皮膚や筋肉も柔らかいですよね?そう、実は私達自身もソフトマターの塊なのです。
したがって、ソフトマターの研究領域は幅広く、明日の私達の生活を激変させるような製品から生体機能の解明、果ては生命の起源にまで及びます。これほど広範囲の研究にソフトマターが関わっているのはソフトマター自身の持つ機能が非常に興味深いものだからです。

バラバラに置いてある積み木は、綺麗な構造(例えばお城や橋)に勝手に積み上がったりはしません。しかし、ソフトマター、厳密にはソフトマターを構成する分子は、勝手に綺麗な(秩序的な)構造に組み上がってくれます。つまり、人間が全く手を加えなくても、分子たちが自発的に綺麗な構造へ集まってくれるので、製品や体内である機能を発現する場合、非常に少ないエネルギーで達成できるということなのです。
例えば、界面活性剤の洗剤機能を考えてみましょう。界面活性剤とは洗剤のもととなる分子で、水を好きな部分(親水基)と水が嫌いで逆に油が好きな部分(親油基)を併せ持っています。そのため、汚れた衣服と一緒に水の中に入れると、界面活性剤が勝手に汚れた(油汚れの)部分に集まってくれます。そこでたくさんの界面活性剤を入れれば、多くの分子が汚れに集まるため、汚れが衣服から浮き出し、最終的にはミセルという綺麗な構造が形成されます。これを「自己集合」と言います。このミセルごと水で流すことによって、衣服から汚れを取り除くのが界面活性剤の洗剤効果です。私達は界面活性剤分子が持つ自己集合という性質を上手く使って、洗剤という機能を得ているわけです。

界面活性剤の洗剤効果

それでは、もっと品質の良い(汚れが落ちる)洗剤は、どのように開発すればよいのでしょうか。先に述べたように、洗剤という機能は分子自体が持っている性質です。ですので、洗剤効果を高めるためには、分子レベルでの製品開発をしなければならないということになるわけです。

分子シミュレーションの必要性

ソフトマター製品は、一度製品として出来上がってしまえば、私達にとって省エネルギー性に優れた嬉しい製品となるのですが、その製品開発は簡単なものではありません。それは、分子自身が持っている特徴を利用するために、分子の詳細を理解しなければならないからです。現在でも、多くの分子、特に自己集合した時の特徴については、まだ完全にはわかっていません。それでは、どうやって現在私達が使っている製品が生み出されているのでしょうか。

実はソフトマター製品は、多くの企業が試行錯誤しながら開発を行っています。例えば、少し形状を変えた分子を数十から数百パターン用意して、実際に実験を行います。その結果、得られた機能で最も良い分子を実際の製品で採用するというわけです。
こうやって書くと簡単に思えるかも知れませんが、そのような数百パターンの形状の分子をあらかじめ用意するのも大変ですし、実験はもちろん1回だけではありません。全ての製品で同じような機能を得られるように、何度も何度も再現性の実験を行います。こうして1つの製品が生まれるまでの時間、労力、そして費用は莫大なものとなります。
ここで見逃せないのは、このような実験では、何故その分子形状が一番良い結果を得られたのかがわかりにくいということです。例えば、さらにより良い製品を開発しようとなった時、先の実験で何故良い結果が得られたのか、知見を十分に活かすことができず、また同じような実験を繰り返さなければならず、結局莫大なコストがかかってしまうということです。

試行錯誤的な製品開発

そこで、コンピュータシミュレーションで分子自体が持つ特徴や性質を理解しようというのが私の研究です。
私の研究では、シミュレーションの中でも特に分子シミュレーションという手法を用いており、これは分子の動きをコンピュータ上で再現することで、どのように分子が集合するのかを自分の目でダイレクトに見ることができます。ここから、何故その分子が一番良い結果を得られたのかを解明するわけです。
さらにもう一歩この研究を進めてみるとどうなるでしょうか。
これまでは、現在のわからないこと(何故その分子が一番良いか)に対するアプローチでした。さらに進んで分子シミュレーションは、分子自体が持っている性質をコンピュータ上で再現する手法ですので、まだ起こっていない未来のこと、例えば実験するのが困難な超高圧下や超低温下での分子の挙動を予測することもできます。つまり、シミュレーションでこんな良い結果が出るのがわかったから、実際に実験を行って欲しい、というシミュレーション提案型、実験のモチベーションと成りうる研究だということです。

実際に私は分子シミュレーションによって、カーボンナノチューブ(*1)内に界面活性剤を挿入した時に、これまでにない新しい自己集合構造が形成されることを発見し、それらに名前を付けました。さらに、気泡生成現象を利用することで、ナノスケール(100万分の1ミリメートル)のモーター(*2)が作れることを示しました。これらは、現在の技術では実現が困難ですが、いつの日にか周辺技術が追いついて来て、実際の実験で再現された暁には、私の研究が大々的にピックアップされると確信しています。

研究例:ナノチューブ内のソフトマターの集合体

研究例:ナノモーターのメカニズム

メッセージ

2000年代以降、日本の理科離れが叫ばれて久しいですが、その一方で日本人のノーベル賞受賞や宇宙開発関連のニュースは常に大きく取り上げられ、国内を盛り上げてくれています。これは潜在的に人々が理科への興味を失ってしまったわけではなく、学校で習っているうちに「難しい」と感じて躓いてしまう人が多いだけのように思います。理系学問に限ったことではありませんが、「間違えたら恥ずかしい」とか、そもそも「難しそうだから」と扉を閉ざしてしまわずに、「まだ間違って当たり前。だから今勉強しているし、難しいからこそ自分が取り組む価値がある」と考えて欲しいものです。
自分自身で生み出したり、発見したりしたものを通じて世界中と繋がる喜び、そして自分の名を歴史に刻みつけて、死んでも残るものを得る喜びを、ぜひとも次の世代にも実感して欲しい。私はそう思っています。

用語説明
*1 カーボンナノチューブとは
炭素で作られた直径が数ナノメートルの筒状の物質。アルミニウムよりも軽く、鋼鉄より強い強度を持ち、自動車や航空機への応用が検討されている。
*2 モーターとは
エネルギーを得て、動きを作り出す機械。ここでは、化学的なエネルギーを力学的なエネルギーに変換する。

機械工学科 講師
荒井規允

所属 学科 / 機械工学科専攻 / メカニックス系工学専攻
研究室 計算熱工学研究室
略歴
2004年 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 卒業
2006年 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程修了
2009年 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 博士課程修了
博士(工学)
2009年 電気通信大学 情報理工学部 知能機械工学科 助教
2010年 電気通信大学大学院 情報理工学研究科 知能機械工学専攻 助教
2012年 University of Nebraska Lincoln Visiting Assistant Professor
2014年 近畿大学 理工学部 機械工学科 講師
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